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日記
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前回あげたおかしな恋の、親友君の視点の方。
今回は”彼女”(=今回のあの人)ばかりを目立たせないように頑張った、その一言に尽きる。
頑張る点が明らかにおかしい。ついでに”彼女”について粉那さん無糸さんから全力で修正をくらった。
そこまで修正されねばならない自分自身がそもそも間違っていることにそろそろ気付くべき。

だいぶ間が空いてしまった。
常葉はいっぺん、反省して地面の底に埋まってくればいい。

前回だけで完結しておいた方が良いんじゃ・・・という方は見ないほうが吉。









 彼女があの人をずっと見ていることは知っていたのだ。それこそとっくの昔に。
 何時だか気付かない、俺が彼女を好きになった時にはもう、彼女はあの人を見ていたのだから。




 敵わない。素直にそう思った。
 彼女が好きなあの人は、とてもきれいで、うつくしいひとだった。
 純粋で、優しくて、強くて、エゴイストで残酷な、とてもきれいなひとだった。これほどきれいなひとを俺は知らない。俺からすれば見ているのが怖いほど、けれどそれでも目が惹きつけられてしまうほど、不思議な魅力を持ったひとだった。
 ああ敵わない。俺の頭はあっさりとそう認められるほどには、冷静で、臆病で、賢明だった。だって俺の立ち位置は、彼女の友人で。友人というカテゴリーは、近いように見えてものすごく、遠い。近い位置を占有できる代わりに、俺の立場は変わらない。
 ただの、友達なのだ。俺は。
 それでも良いと思った。この友達というイスさえも奪われてしまうくらいなら、俺は賢い臆病者で良い。彼女が幸せであるなら、彼女が笑っていられるなら、俺はそれだけを願おうと思った。多分、耐えられると思う。失恋の痛みにも、何食わぬ顔で笑う虚しさにも。衝動に任せて全てぶちまけてしまって、全てを失ってしまうには、今のイスは居心地が良すぎた。それくらいなら耐えられる、彼女が幸せなら耐えられる。そう思った。
 だから俺は、どうして彼女が好きになったのがあの人だったのか、せめてあの人でさえなければ良かったのに、あの人さえいなければ良かったのに、そういった醜い嫉妬はひたすらに見ないふりをした。
 心の牢屋に閉じこめて。鍵を掛けて。




 折に触れては、思いを扉の向こうに閉じこめた。
 ふとした拍子に浮かび上がる言葉。口をついてでそうになる瞬間。そんなときは泣きたくなるほど切なくなる。

 好きだ。

 心の中でだけ呟いてみる。それは言葉にならない言葉。片っ端から増えては檻の向こうに送られる思い。

 好きだ。

 彼女が元気に笑うところも。歯に衣着せぬ物言いも。ふとした拍子に見せる幼い表情も。―――彼女を見つめるまなざしも。

 ―――好きだ。

 なんで優しい気持ちだけ抱えてはいられないんだろう。彼女が笑っていてくれればいい。あの人を思って幸せな気持ちに浸ればいい。その目が悲しみを浮かべなければいい。自分の気持ちを少しでも知ればいい。伝えられない苦しみも友人として振る舞う罪悪感も募るばかりの焦燥も全部全部味わえばいい。

 ―――好きなんだ。

 全部、思いは全て扉の向こうに追いやって、そうして気付かない振りをする。
 感情を押し込めるのは慣れている。また一つ、部屋に放りこんで鍵を掛けるだけ。
 もうどれだけ押し込んだか分からないほど、ぎゅうぎゅうに詰まっているけど。
 慣れている。出たい出たいと叫ぶ思いから目を逸らして、必死に鍵を握りしめることは。


 見るのも重くて苦しんだ。
 だからだからどうか俺の思い。その部屋でじっと耐えていてくれ。それができないなら、俺のために死んでくれ。





 彼女が、ふられた。
 見れば分かった。ずっと彼女を見続けていたのだから。彼女が、あの人を見続けていたように。
 彼女の思いが報われることがないのは知っていた。だってあの人は、感心するくらい誰のことも見ていない。馬鹿みたいだ。幸せになって欲しかっただなんて、彼女があの人を見ている限り、幸せになることなんてないと知っているのに、どの面を下げて俺は笑って祈るんだ。とんだ裏切り者だ、世界一下劣な、卑怯者。
 それでも、幸せになって欲しかったのは確かなんだ。
 ふられたことに喜ぶ俺がいる。ざまあみろと、この苦しみを理不尽にも彼女に八つ当たりしている俺がいる。苦しくて情けなくて、また心が重くなる。けれど同時に、悲しみに耐える彼女を見ていると苦しくなる。あの人に怒りも湧いてくる。どうして彼女の思いに応えなかったんだ、ただ頷くだけなのに。
 そんな相反する思いの狭間でぐるぐると回りながら、俺は、思いをはき出した彼女を純粋に尊敬する気持ちも見つけて、ほっとしていた。
 俺とは違う勇気ある彼女は、ぶつかる方を選んだ。俺は詰め込んでいくだけ。きいきいと泣き叫ぶ思いから目を背けて、鍵を握りしめる。



 なんで、なんでこんなに苦しいんだろう。
 俺も彼女も、ただ好きなだけなのに。 
 ただ好きなんだ。それだけなんだ。
 それだけじゃ駄目なのか、なあ、神様。



「好きだったんだ」

 ぽつりと、彼女の口から苦しみの残骸がこぼれ落ちた。言葉にするとあまりにも簡単で、見過ごしてしまえそうになるほど小さな思いだった。
けれど、その小さな欠片に、俺はハンマーで頭を殴られたように強く打ちのめされた。
 初めてだった。彼女がその言葉を口にするのは。

「だって、好きだったんだ」

 信じられないくらい胸が熱くなって、頭は真っ白になって何も考えられなくなった。瞬時に沸騰したみたいだった。それは今まで経験したことがないほどの、激しい嫉妬だったんだと、後から振り返れば分かる。打ちのめされたのだ、あらためて形として見せつけられたのだ。敵わないと。
 だから、見捨てれば良かったのに。いつもみたいに見ないふりをすれば良かったのに。
 もう一度彼女が呟いたそれを、その思いを、俺はとっさに拾ってしまった。小さいくせに、気付かれないほど弱い存在感しかないくせに、思いを抱え続ける苦しさを、見てももらえない哀しさを、諦めようとしても諦めきれない自分自身へのむなしさを、欲張りなほど詰め込んで重くなりすぎた、恋の残骸を。
 気付かないふりをすればよかったんだ。けれどとっさに手を差し出して拾ってしまった、だってそれは、俺が抱えているものとあまりにも同じだったから。捨てられる思いを見るのは悲しすぎた。思いが死んでいくのを見るのにはまだ耐えられなかった。
 それを手のひらに乗せた瞬間、見失ってしまった。鍵を。
 ああなんで、あんなにも厳重に管理してたのに。取り落とさないように怯えながら、手だけはかたく握りしめていたのに。あれがないと大変なんだ、部屋にめいっぱい押し込めた思いは限界なんかとっくに超えていて、扉を必死に閉じようとするけど俺の腕と足だけじゃどんなに踏ん張ったって止まらない。
 見えない場所へ押し込めて見ないままに殺していこうとした想いが、生きたいと叫びながら扉から飛び出る。
 鍵は失った。
 俺は、それを留める術を知らない。

「俺は、ずっと見てたよ、お前を」

 待ってくれ。

「俺はお前のことが好きだよ」

 制止の声は、届かない。



 彼女は、驚いた顔をしていた。ぽかんとした、場にそぐわないほど無防備な顔だった。
 俺も似たような顔を、いや、それよりももっと酷い、マヌケ面をさらしているんだろう。
 手先が冷たくなって、心臓は痛いくらいに煩かった。
 とうとう想いはあふれ出た。もう押し込めていた部屋には戻らない。散らばった行方も分からない。俺の想いも彼女の欠片のように見向きもされない残骸になってしまうんだろうか。
 それにはまだ耐えられそうになかった。けれど、はき出された思いの分だけ、心は確かに軽くなった。





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